猫かぶりな男とクールな女

僕は猫被り




「ごめん、遅れて……! 」



「あっ……全然!この雨のせいでバスが遅れたから、私もさっき着いたんです」




そう言って微笑む美奈子。
傘で遮れきれなかった雨の滴が肩を濡らしていた。



「…確かに。スゴイ雨だもんね。」



空を見上げるまでもなく、目の前の視界がぼやけるほど豪雨だ。




「すみません、よりによってこんな日に…」



美奈子は申し訳なさそうに眉を下げた。



「いや…最近忙しかったから、いい気晴らしになるよ」



「…それなら良かったです……」





職場近くのレストランという事もあり、見慣れたビルの合間をたわいもない話をしながら二人並んで歩いた。






「…こんなとこに店あったんだ」




「たしか7月くらいに出来たばかりなんですよ!
」」


よく通り過ぎるビルだが、どうやら、知らないうちに地下1階のテナントがイタリアンレストランに改装されたようだ。
以前はリラクゼーションサロンと書かれた看板が張り出されていたはずだが、客が出入りしているところは見た事がなかった。



地下につながる狭い階段を美奈子について下りて行くと…
ガラス戸越しに見える店内は、真っ白な壁一面にワインボトルとイタリアの風景を描いた油絵がバランスよく飾られていた。



「ここ、雰囲気も落ち着いてるからかなり気に入ってるんです。」




蒼介が先に立ってドアを開けてあげると、美奈子は嬉しそうに声を弾ませながら店内へ足を踏み入れた。



「いらっしゃいませ」





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