猫かぶりな男とクールな女
私と悠斗
「………夏帆」
「………何。」
「顔ひどいよ。」
「…………」
―休日の昼過ぎ
遥の家から始発で帰ってきた夏帆は、化粧も落とさずに、ソファーでダウンしていた。
近くに住む従兄弟の佐々木悠斗がインターホンを連打しなければ、夕方までは寝ていただろうに。
夏帆とは同い年の悠斗はいずれ継ぐであろう実家の酒屋を手伝っている。家業という事もあり、時間も自分で調整しやすいのか、夏帆の休みを逐一チェックしてはこうして遊びにやってくる。
「…アンタ、仕事は?」
「んあ? 昼休みだよ。」
夏帆の冷たい眼差しをものともせず、悠斗はリビングの小さなテーブルの上でパンやらカップラーメンのパッケージを開け始めている。
「…ってか、何で自分ん家で食べないのよ?…それ、くさいんだけど」
「だって俺ん家エアコンないんだもん。
あんな暑い部屋でカップラーメンなんか食えねぇよ。
あ…夏帆、これにお湯入れてちょーだい。」
そう言って悠斗が差し出したのは『ニンニクたっぷり味噌ラーメン』
「……………」
夏帆は無言のままエアコンのスイッチを切って窓を開けた。
「ちょ…っ!何開けてんの!?
すげぇ雨なのに!」
「こんなに涼しいのにエアコン必要ないでしょ。
ニンニク味噌ラーメン食べたいなら帰ってよね。」
悠斗は慌てて立ち上がると、夏帆の脇をすり抜けて窓を勢いよく閉めた。