猫かぶりな男とクールな女
「分かったって!うわぁ……よけいにムシムシしてきた!
……あぁ、ほら…水しぶき入っちゃってんじゃんよぉ…」
外は確かに凄まじい雨で、足元に目をやると、窓から吹き込んだ細かい水滴が床に飛び散っている。
「………お前、何かいつもよりまして機嫌悪くね?」
床をティッシュで雑に拭く悠斗。その様子を夏帆はソファーに腰掛けながら静かに見守る。
「…何か嫌な事でもあった?」
悠斗は視線を床に落としたまま優しい声で問い掛けた。
「…別に。ただの二日酔い」
「ふーん。じゃあ何でまたそんなしかめっ面なの。」
拭き終わったティッシュを空のコンビニ袋に詰めこむと、悠斗は再びパンを食べはじめた。
「…具合悪いからせめて黙って静かにしててくれない?」
夏帆はおもむろに立ち上がり、冷蔵庫から栄養ドリンクを取り出した。
「あ……また眉間にシワ寄せてる。ってか、栄養ドリンクって…親父くせぇし!
お前、そんなんじゃマジで結婚できねぇよ!」
からかうような口調に反して悠斗の目は本気でそれを言っている。
そんな言葉を余所に、夏帆は一気に栄養ドリンクを飲み干した。
「親父くさくて結構!
………結婚なんてしたくないし。
私の面倒はアンタが見てくれるんでしょ?」