猫かぶりな男とクールな女
一通り自己紹介を済ませると、いい具合に酒も進み、和やかなムードに包まれた。
緊張が完全に取り払われると、テーブルを挟んで楽しそうな笑い声が飛び交う。
そんな中、蒼介だけはグラスを握ったまま小さくうなだれていた。
土日休みの誠や他の連中とは違い、明日も仕事なのが自分だけだと思うと、どうしても憂鬱な気分になってしまう。
「おい……蒼介。お前らしくもない……可愛い女の子を目の前にして、何だよそのテンション。」
「……あっちが3人なら十分、メンツ足りてんだろ。 俺、適当に飲んだら途中で抜けるから」
顔を寄せ合ってコソコソと話していると、向かいの席から怪訝そうに二人を見つめていた菅原 弘美が口を挟んだ。
「あの……あと2人、仕事で遅れてて…もう少しで着くと思うんですけど…」
そう言いながら取り分けた料理を蒼介の前に置いた。
「ありがとう」
蒼介は彼女に笑顔を向けながら、近過ぎる誠の顔を手で無理矢理押しやった。
「弘美ちゃん……コイツには気をつけたほうがいいよ!本性がマジで…」
「僕、エロいから」
誠の言葉を遮るように発した言葉が、もともとピンクのチークに染められていた弘美の頬に赤みを足した。
「ふっ!冗談だよ。反応が可愛いね、菅原さん。」
「…………」
耳まで真っ赤になった弘美は、『ちょっと、化粧直して来ます』と呟いて席を立った。