猫かぶりな男とクールな女
微動出せず向き合う遥と誠。
お互い見つめあったまま一歩も譲らない。
誠が夏帆に興味を抱いている事は遥も気づいているはず。
遥が自分に対して今は恋愛感情を持っていない事も分かっている。
それなのに蒼介にばかり加担して、のけ者扱いされた誠の苛立ちはおさまらない。
「………もういいよ。俺、帰るわ」
くるりと遥に背を向け、誠はリビングのテーブルに歩み寄ると、テーブルの上に置かれた財布と携帯をポケットに無理矢理詰め込んだ。
「あれ…怒っちゃった…?」
「…………」
遥の問い掛けに答える事なく、誠はスタスタと玄関に足を進める。
「ちょっとぉ、そんな怒んないでよ」
慌てて誠の後を追う遥。
「脈もねぇのに呼びされて…俺、ピエロみてぇじゃん」
そう呟くと玄関に座り、乱暴に足を靴に押し込めた。
「………誰もピエロなんて思ってないよ。
……そう思わせたなら謝る。
ゴメンね……?」
遥は誠の隣にしゃがみ込み、誠の頭に手を置いた。 優しくフワリと髪を撫でる。
「……………やめろよ、それ。」
誠は俯いたまま固まる。
「何が?」
「………子供扱いすんなって言ってんの。」
振り向き、遥を睨む誠の耳は真っ赤に染まっていた。
―やっぱ変わってない………
子供扱いされんの弱いんだよね……。
遥はすかさず顔を両手で覆い、声を出さぬよう、必死で笑いをこらえた。