猫かぶりな男とクールな女
事務所のドアが静かに開く。透き通った声が遥の動きを止めた。
声の方を向くと………見慣れない顔だった。
真っ白な肌に欝すらと浮かぶソバカス。栗色の瞳と赤い唇だけがノーメイクに見える彼女の顔に色味を足している。
ベリーショートの髪の毛がその印象をより一層幼くみせていた。
「こんにちは」
この店のスタッフは皆知っているつもりだった遥は戸惑いながら挨拶をした。
「…こんにちは」
返ってきたのは空調の音に消え入りそうなか細い声。
「あ……木本さん、会うの初めてだっけ?
この子ね、今週から入社した柊 夏帆さん。」
「柊です。よろしくお願いします。」
ニコリともせずに真顔のまま軽く頭を下げる夏帆。
「提携させて頂いている“Bride's Day”の木本 遥です。こちらこそよろしくお願いします。」
遥はお得意の営業スマイルで握手を求めた。
無言のままゆっくりと手を差し出す夏帆。その手を遥はしっかりと握りしめる。
「………この子、少し人見知りでね。
木本さんからも今後、色々アドバイスして貰えると助かるよ。」
細田は事務所のパソコンの画面を見ながらやれやれと言った具合に額をさすった。
「アドバイスなんて、そんな大それた事……」
謙遜して顔をブンブンと横に振る遥を余所に、夏帆はコートを脱ぎ、更衣室へと繋ぐドアに手をかけた。
「私…研修の時間なので、失礼します。」
そう言って軽く一礼をすると夏帆は、さっさと更衣室へと入って行ってしまった。