猫かぶりな男とクールな女
「え……………
あ、前に霞浦町に住んでいた事があって、その時に…」
「霞浦町…………」
遥の言葉の途中で細田の表情が一気に曇った。あまり見ない細田の動揺した様子に遥は何かを確信し、机の下で手をギュッと握りしめた。
「…霞裏町のどこで会ったの?」
細田は今度は声をひそめて聞いてきた。
「それは………
えっと………駅の隣の……」
遥は適当な場所を考えて口に出そうとするが、細田の鋭い視線が気になり、どもってしまう。
「……木本さん」
「………はい。」
細田は鋭い視線を向けたまま、それでも声を穏やかにして言った。
「…夏帆の事、知ってるの?」
遥は俯いたまま、首を横に振った。
「あの………すみません………」
声を曇らせる遥は、『会った事がある』と言ってしまった事を心から後悔していた。
そんな遥の心情を察した細田は、優しく言葉を落とした。
「……霞浦の『病院』で会ったんじゃないの?」
「………ご存知なんですね」
遥が覚悟したように顔を上げると、細田は目を細めてそんな遥をまっすぐ見つめた。