猫かぶりな男とクールな女
「…子供の頃から可愛がっていたからね。」
そう言う細田は昔の夏帆を懐かしむように顔を綻ばせた。
「……さっきのは嘘です。そこ、叔母の『病院』で………あっ…でも、叔母から彼女の病状を聞いたわけではなくて…」
「分かってるよ。医者は軽々しく言ったりしないのは」
先程までの凍りついた表情は消え、穏やかに微笑む細田。しかし遥には、その瞳の奥に悲しみのような感情が渦巻いているように思えた。
「………病棟の庭が広くて………
たまたま遊びに行った時に庭の簡単な手入れを頼まれて……そこで彼女と出会ったんです。」
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木の葉が舞い落ちる小さな庭。片隅に置かれた白いベンチに夏帆は一人座っていた。
その頃は長かった髪が秋の冷たい風になびくが、俯いたまま、髪が乱れる事を気にする様子はない。
―患者さん……だよね?
むやみに患者に話かけたりしないように叔母から念を押されていた遥は、少し距離を置いた場所から降り積もった落ち葉をホウキで掃く事にした。
個人の趣味か…あるいは患者をリラックスさせるために作らせたのか、庭には四季折々の木々が所狭しに埋められている。
春には満開に花を咲かせる枝垂れ桜と、夏には青々と葉を広げるケヤキ。今の時期には見応えのあるモミジに、極めつけは冬にイルミネーションを飾り付けるために、モミの木のようなものまである。