猫かぶりな男とクールな女
夏帆は………
真っ青に顔を強張らせていた。
手に持った手紙はくしゃくしゃに握り潰されている。
肩を震わせ、声を押し殺す夏帆の目からは涙がとめどなく流れ出していた。
遥はただ呆然としてしまい、結局声をかける事もできず、その場から立ち去った。
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「…………泣いてた?病院で?」
「はい…」
遥はひとまず午前中に2件だけ挨拶廻りを済ませ、今は小さなレストランで細田と向かい会って座っている。
夏帆や他のスタッフに聞かれる事を危惧し、ランチの時間に合わせて細田と待ち合わせしていたのだ。
店の近くにある古い洋食レストラン。常連客らしきサラリーマンが4人ほどいるだけで、ランチタイムにしては静かな店内。店の雰囲気にピッタリなクラシックなBGMが流れていた。
「それで……何となくその事が気になって、叔母に話したんです。
…手紙を見た後の様子を」
細田は食後に運ばれてきたコーヒーを店員から受けとると、遥の前に差し出した。
「怯えてた…って?」
「はい……悲しいとか…そういう風には見えなくて。
それでも……叔母はやはり彼女の事については何も話してはくれなかったんですけどね。」
「そう………。」
細田は何か考え込むように頬杖をついてコーヒーの湯気を見つめている。
「でも………」
「………?」
細田は視線を遥に向けた。
「…しばらくして、一つだけ分かったのは………
柊さん、その日以来、病院に来なくなっちゃったんです。」
「え…………?」