猫かぶりな男とクールな女
「どうしても気になってしまって…何度か病院に足を運んでも全然見かけないものだから、叔母にしつこく聞いたら…
他の病院で治療する事が決まったって。親御さんから連絡があったって……」
遥は手付かずだった冷めたコーヒーを口に含んだ。 香りも温もりも失ってしまったコーヒーは、ただ苦みだけを喉の奥に残した。
「……おかしいな」
「おかしい…?」
首を傾げる遥を細田はまっすぐに見据えた。
「……病院を変えたいと突然言い出してたのは夏帆自身だよ。2年も通っていたから、彼女の両親は反対したんだ。
留学なんてしていない。
………なにより不思議だったのは、転院したらすぐに治療が終わったんだ。薬も、カウンセリングも必要ないって。」
遥はハッと口元を抑えた。
細田は眉間にシワを寄せると、小さくため息をついた。
「………夏帆は隠したのかもしれないね。自分の"傷"を。」
「で、でも…なんでそんなこと………」
細田はゆっくりと首を振った。
「分からない。
…………実は、僕は前から少し疑っていたんだよ。
明かに以前の天真爛漫だった頃の夏帆には戻れていないからね。」
「…………私、やっぱり余計な事…」
遥は頭を抱えて俯いた。
「いや……むしろ聞けて良かったよ。
心配しないで。この事で夏帆を問い詰めたりしないからね。
それに………とてもデリケートな問題なんだ。
変に振り返すのもよくないだろうし。」