猫かぶりな男とクールな女
蒼介は黙り込んだまま俯いた。
「普段の仕事は卒なくこなしてるしミスもないんだけど………それだけじゃステップアップできないのよ。……何を言いたいか分かるわよね?」
「………異動の話ですか。」
「……そう。
気持ちは変わってないのよね?」
「………はい。」
今度は佐伯にまっすぐに視線を向け、力強く頷く蒼介。
「………それなら。まず、ここでの仕事に全力で取り組みなさい。
今ここでできない事が他で出来ると思ってるなら大間違いよ。
そういう幼稚な考え方の人間、ここにはいらないわ。」
そう言い切ると、佐伯はデスクに散らかっていた何枚かの書類を重ね合わせ、腕時計に目を落とした。
もう話は終わりかと思い、蒼介は『すみませんでした』と頭を軽く下げた。
踵を返し戻ろうとする蒼介の背中に佐伯は低い声で言葉を投げかけた。
「年明けに、もう一回提出して。」
「え…………」
驚き、振り返ると佐伯の鋭い眼差しが突き刺さる。
「会議は延長するわ。他の案もイマイチだったから、年明け早々会議で企画を絞るのよ。
いい?もう一度チャンスをあげるんだから、半端な企画持ち込んだら許さない。」
そう吐き捨てると、ツカツカとヒールの音を立てて佐伯は立ち去ってしまった。
「………はぁ。」
一人その場に残された蒼介は小さくため息をつき、しばらく窓の外をボーッと眺めていた。