猫かぶりな男とクールな女
「ピリピリしてますね、佐伯さん。」
「村井………」
蒼介が肩を落としながら自分のデスクに戻ると、後輩の村井快斗が、どこからともなく現れた。
「欲求不満っすかねー? ってか男いるのかなぁ、あの人。」
「どうだろうね………仕事に対して全力だから、むしろ男なんていらないんじゃないかな。」
「…………。」
受け流すように淡々とパソコンのデータを処理していく蒼介に村井の冷たい視線が降り注がれる。
「……そういう先輩は最近どうなんですか?」
「……何が?」
蒼介は画面から目を逸らすことなく耳を傾ける。
「春日部さんの事ですよ。あんな美人を振るなんて………マジありえないっすよ。」
「誰から聞いたの、そんな話………」
「しかも…………好きな人いるなんて断り方、ずるいですよ。どうせ付き合う気がないなら“彼女がいる”とか言えばいいのに。
いい大人が“とりあえずキープ”とか、どうかと思いますよ?」
村井は徐々に声のトーンを落としていく。
「本当のところ、好きな人がいるっていうのも嘘なんじゃないんですか?先輩って何でも当たり障りないようにしてますもんね。」
「………何でも知ってるんだね。村井は」
威圧的な言葉にも臆することなく仕事に集中する蒼介に村井は更に詰め寄った。
「先輩みたいな人見てるとマジでイライラするんですよねー。
……春日部さんは、そんな先輩に騙されて諦めきれないみたいですけど。」