猫かぶりな男とクールな女

「……笑いすぎよ、誠。」



「…すみません」


遥の鋭い視線でを一蹴されると、誠は姿勢を正して座り直した。
大学時代と変わらないやりとりに、思わず昔の光景がデジャブする。
懐かしさに浸りながら二人を眺めていると……




「木本さん!」




遥の後方から黒い物体が駆け寄って来る。




「あぁ、夏帆ちゃん、お疲れー!
……あれ、中西さんはー?」



遥が“夏帆”と呼んだその女は颯爽と歩き、蒼介から一番遠い、対角線上の席に座った。


「あぁ、中西さん、急遽明日から大阪出張になっちゃったので、今日は無理みたいです……すみません」


「そうなの?大変ねー、中西さん……」


見とれている男供と挨拶を交わす事なくコートを店員に渡す彼女を蒼介はジッと見つめた。

色白な肌に黒いノースリーブのタートルネック。胸元には小さく光るダイヤのワンポイントネックレス。細身の黒いパンツとトップスを隔てるように太めのベルトが締められ、それがウエストのくびれをより一層際立たせている。
落ちついた服装なのに、くせっ毛っぽく顔に纏わり付くショートの髪型がどこかしら幼さい印象を醸し出していた。



「ちょ、ちょっと、夏帆ちゃん…自己紹介は…」



遅れてきたそぶりもなくメニューを選び始めた夏帆の背中を遥が苦笑いしながら叩いた。



「あ……、すみません。皆さんはもう自己紹介したんですか?」







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