猫かぶりな男とクールな女
夏帆が顔を上げ、皆の顔を見渡すと、一瞬蒼介と目が合った。
―ボーイッシュって、こういう子の事を言うんだよな……
他の女達とは違い、薄く塗られた化粧が、生まれ持った美しい目鼻立ちを証明している。
「あの… 柊 夏帆です。遥さんとは仕事でお付き合いがあって……今日頭数合わせでここに呼ばれました。」
夏帆は愛想なく、無表情のままペコリと頭を下げた。
「ふっ………………!」
「…………?」
思いがけず吹き出した蒼介に、視線が集まった。
「な、何ですか…?」
小刻みに肩を震わせて笑う蒼介に夏帆は眉間にシワを寄せる。
「ちょ……っ、蒼介君…? 何、イキナリ笑ってんの!」
慌てて遥がテーブルの下で誠の足を蹴った。
「いって……!
あ………そうだよ、蒼介!失礼だろ!
ごめんね?変なんだよコイツ、笑いのツボ…」
「……別にいいですけど…」
夏帆はムスッと顔を歪ませて、蒼介から目をそらした。
「いや………ごめんごめん。なんか…可愛いなと思って……ふはっ」
蒼介は目尻を下げたまま、肩を揺らして笑いをこらえるのに必死だ。
そこにいる誰もが『可愛い』という褒め言葉に安堵の表情を浮かべる中……
夏帆だけは眉間にシワを寄せて蒼介を睨みつけた。
「可愛い……って何よ………」