猫かぶりな男とクールな女
君にハッピーバースデー?
「もう…………言葉が出ないです」
「何で?
今日は何も仕組んでないわよ、私。
たまたま蒼介君に誘われて、たまたま夏帆ちゃんから電話があって、たまたま明日が夏帆ちゃんの誕生日だったのよ。
一緒に誕生日祝うのが自然じゃない?」
「俺がいたら彼女、来ないですよ。」
「来るわよ。」
何の根拠もないのに自信満々の遥。
「帰ります。」
「ダメ!もう祝うって言っちゃったもん。」
「いやいや………言っちゃったもんって言われても……」
―ブブブブブッ………
蒼介の携帯がブルブルと震えた。
バイブの音にうんざりしつつ、画面を覗くと………
『着信 佐伯 未来 』
腕時計に目をやると時間は9時をまわっていた。
「……はい、お疲れさまです。」
『新嶋ー。今、家?』
「あ………いや、会社近くで飲んでます。」
『ホント?助かったー……
悪いけど、私のデスクのクリアファイルに入ってる書類、○○社にFAXしてきてくれない?』
「え……今からですか?」
『さっき、今日中にFAXほしいって先方から連絡があったんだけど……私、明日大阪で朝一で会議があるから前乗りでもう新幹線乗っちゃったのよー。
誰かしら残業してるはずなのに……
アンタ以外誰も電話出ないのよ!」
『あー………はい。分かりました。今から向かいます。』
電話を通して伝わる有無を言わせない佐伯の気迫に、ついあっさり了承してしまった。
「遥さん……すみません。
マジで会社に戻らなきゃいけなくなったんで、俺、行きますね。」
「えー!? 夏帆ちゃんのお祝いはどうすんのよ?!」
「どうするもなにも…………」
「お酒飲んじゃったのに仕事なんかできないでしょ!」
「FAX送るだけだから大丈夫ですよ」
「じゃあ終わったらおいでよ。」
「………友達でも彼氏でもないのに、なんでそこまで………」
「……………あー、そうですか。
そうね、別に蒼介君いなくてもお祝いはできるし。
分かった。
仕事ならしょうがないわね。」
しょうがないと言いつつもあからさまに不機嫌になる遥。
蒼介を見ないまま、「はいはい、行きなよ早く」と片手をヒラヒラ振る。
―遥さんも人の事言えないくらい大人げない………
蒼介は「今日はありがとうございました」と一声かけ、お代置いてから席をあとにした。