猫かぶりな男とクールな女
とりあえず、ここから解放されることに安堵しながら引き戸に手を掛けると………
― ガラガラッ……………
「あ……………」
かきあげられた暖簾から夏帆が顔を覗かせた。
あまりのタイミングの悪さに、言葉を失う蒼介。
― ホントに来た………
「こんばんは」
夏帆は一瞬驚きの表情を見せたが、すぐに真顔に戻って、軽く会釈した。
「こ……こんばんは。
あの………今から会社戻らなきゃいけなくて……」
「あぁ………
構わないですよ。
また木本さんが無理矢理呼んだんでしょう?」
相変わらず愛想のない夏帆物言いに、苦笑いで「まぁ………ね」と返した。
「全然気にしないで行ってください。
明日誕生日だなんてさっき言われるまで忘れてましたから。」
そう言って、夏帆は背伸びしながら店の中を見渡した。
「………うん。ごめん、そうさせてもらうよ。
じゃあ…………」
またね、と言いかけて咄嗟にそれを飲み込んだ。
そんな蒼介に夏帆はスレ違いざま、「さようなら」と言い、すたすたと店の奥へ入って行ってしまった。
―嫌悪感丸出しなのに………
何で来るんだよ…………
夏帆の言動に違和感を感じつつも、店を出ると、胸元で携帯が震えた。