猫かぶりな男とクールな女
『新嶋ー、ゴメンッ!
やっぱり春日部が残業してたみたいで、さっきFAXして貰ったから、会社戻らなくて大丈夫!
じゃーそういう事で、お疲れ様!』
着信の相手は佐伯だった。一気に捲し立てるように喋り、一方的に切られた。
「……何でまたこのタイミング。」
携帯を睨みつつ、仕方なしに歩き出す蒼介。
今さら、焼き鳥屋に戻ることなど出来るはずもなく……
タイミングの悪さに拍車がかかり、ポツリ、ポツリと雨が降り始める。
帰宅中のサラリーマンや酔っぱらいが足早に通り過ぎていく。
蒼介も駆け足で横丁を走り抜ける。
大通りへ出ると、雨はどんどん大粒に…。
通りかかった花屋の軒下に駆け込み、雨宿りしながらコンビニを探す。
「寒っ……………傘買わないと」
通りに連なるほとんどの店は、店員がせわしなく閉店の準備をしている。
50mくらい先にコンビニの看板があるのを見つけ、向かおうとするが………
数歩進んですぐに踵をかえした。
「………すみません!
まだ大丈夫ですか…………?」
******
「夏帆ちゃん、ゴメンねー!
蒼介君急遽仕事入っちゃったのー…」
「いえ、それは全然………って、そうじゃなくて!
何であの人と引き合わせようとするんですか!?
いい加減にしてください!!」
蒼介が先ほどまで座っていた席で夏帆は眉間にシワを寄せて遥に詰め寄る。
「えー………?
本当に偶然なのよ?
だって今日は私、蒼介君に誘われたんだもの。」
「だとしても……あの人がいるのにどうして私を呼んだんですか?!」
「夏帆ちゃんを祝ってあげたくて。」
「そ……それはありがたいですけど……!
で……でも、新嶋さんは…」
「一緒に飲んでたんだから途中で帰らせるより、一緒に祝うのが普通じゃない?」
「普通……なんですか?
えっと…………正直私、そういう人付き合いとかわからないですけど……
え……関係ない人の誕生日を祝ったりするものなんですか?」
「関係なくないでしょ。この前朝まで一緒に飲んだじゃない。」
「…………た、確かに。」
完全に遥のペースに飲み込まれる夏帆。
「まぁ、そんなに怒らないで……乾杯しよ!」
ブツブツと自問自答している夏帆にビールを差し出した。
「細かいことは気にしない!私と夏帆ちゃんは仲良しで、蒼介君も私と仲良しだからー、皆で仲良くしたほうが楽しいでしょ!」
「何で私なんですか……菅原さんに協力してあげたらいいのに……。」
「あの子はいい子だけど………、蒼介君には合わない。」
「私も合わないですよ……」
「ねぇ、試しに…………いや、遊びでもいいから、一回付き合ってみない?」
「遥さん……………!!」