猫かぶりな男とクールな女
「誕生日………本当に忘れてたの?」
夏帆の意外な反応に、いつもなら適当に言葉が口から出てくる蒼介も、どうしていいかわからず言葉を慎重に選ぶ。
「ホントは忘れてたわけじゃないんですけど………。
好きじゃないんです。
あんまりいい思い出がなくて。」
「自分の誕生日が?」
「そうです。
だから…………家族にもお祝いはいらないって言ってあって……誕生日聞かれても、話そらしたり席はずしたりして誰にも知られないようにごまかしてたんです。
………遥さんにいきなり「祝う」って言われてかなりビックリしました。
どうやって知ったんだろうって」
「まぁ……………あの人、執念深いからね。
………………それに情深いから。
どうにかして調べたんだろうね。」
「……………でしょうね。」
そう言って夏帆はフッと笑った。
「嫌だと思ってたのに………花を貰うってこんなに嬉しいことなんですね。
プレゼント貰うのもかなり久しぶりだから免疫がないのかなー。」
照れくさそうにそう言いながら笑みを浮かべる夏帆。
蒼介の胸がトクンッと小さく鳴った。
素直に「可愛い」と思ったのに、その言葉を喉の奥に押し込めた。
「そういう反応されるとは思わなかった」
「え……………」
「俺のこと嫌いでしょ?
だから……
後に残らないものがいいかと思って………
………………………………花にしたんだ」
眉の端を下げて小さく息を吐く蒼介。
「あ…………なるほど。」
夏帆は手元の花束に視線をおとした。
「………嫌いじゃないですよ。
…………………………好きでもないけど」