猫かぶりな男とクールな女
「だ…………大丈夫ですから………!
早く行ってください!」
転んでしまったのがよほど恥ずかしいのか、俯いたまま手を振る夏帆。
「と………とりあえず立とうか。」
無理やり脇の下を抱えて立ち上がらせる。
落ちていたバッグを拾ってくれようとした運転手が「あいやー。これじゃダメだ。」とため息混じりの声をあげた。
「こんな細いヒールじゃ歩けないよ!
部屋に着くまでに傷だらけだわこりゃ。」
運転手が指差す先にはピンヒールがキラリと光っていた。
…………………… マジか。
「あの…………バッグありがとうございます。
もう行って頂いて大丈夫です。
すみませんでした……………。」
一度夏帆をマンションの壁に寄りかからせながら座らせると、運転手に頭を下げてバッグを受け取る。
「兄ちゃんも大変だねー! 部屋に入っちゃダメだからねー!」
ガハハと笑いながらタクシーに乗り込むと、運転手は颯爽と去っていってしまった。
………外灯に照らされながら身動きがとれない二人。
夏帆のバッグに花束を詰め込み、自分のバッグと一緒に手提げ部分を握る。
「……………歩ける?」
「……………………」
夏帆は無言のまま頷き、ゆっくり立ち上ろうとするが、やはりよろめいていて危ない。
「部屋に入るところ見届けて帰るから。」
「いえ………もう大丈夫ですから。」
カバンを蒼介が持っているのを忘れているのか、そのまま歩き出そうとする。が、すぐにゆらりとバランスを崩した。
「…………っと!
危ないってマジで!もしかして………………さっき足、ひねった?」
慌てて夏帆の二の腕を掴んで支えると、その反動で蒼介の胸元に倒れこむかたちとなった。
「………………す、みませんっ」