猫かぶりな男とクールな女
「わっ…………いや、大丈夫?……………足!」
動揺して腕を離しそうになるが、ひねった足の事を思い出しあたふたとする蒼介。
「ホントに……………一人で歩けますから!!」
「危ないって!!」
腕を振りほどこうとするのを制止して無理やり壁に寄りかからせる。
「あのさ、ケガをしたいの?……………俺に襲われる心配してる?」
夏帆は首を横に振る。
「足、痛いんでしょ?
無理に歩いて悪化すると仕事に影響するよ?いいの?」
再び首を横に振った。
「じゃあ……………………
おんぶとお姫様抱っこ、どっちがいい?」
一瞬、怪訝そうな顔で蒼介を見上げたが、至って真面目な蒼介の表情を見てすぐにまた俯いた。
「おんぶ……………………」
…………二つのバッグの手提げ部分を握る手がしびれる。先程バッグに入れた花束は今は夏帆の手にしっかり握られている。
夏帆の部屋までツラい道のりを想像していたが、実際は軽すぎてむしろ痩せすぎなんじゃないかと心配になった。
エレベーターに乗り込み、夏帆から小さな声で促されるまま階を昇る。
それ以外は終始無言のまま。
するのもされるのも久しぶりのおんぶのせいで二人の胸の鼓動が不規則に重なる。
ガガッーーウィーン…………………
ドアが開き、降りてみると廊下は薄暗い。
「一番奥の部屋です…………」
掠れた夏帆の声に従い一歩一歩部屋へと近づく。
………すると、一番奥のドアの前に何か黒い影が寄り掛かっている事に気づいた。
こちらが歩みを止めると、その影がゆらりと動いた。