ギョルイ
何が起きたか理解できなかった。ざらつく唇を押し付けられて、唇まで鮫肌なんて徹底しているな、とか下手くそなキスのせいで尖った歯が当たってるんだ、とか関係ないことが頭の中をぐるぐる回る。吹き込まれる魚の匂いがする生温かい息も、少し冷たい舌がぬるぬると絡んでくるのも、不思議と生理的嫌悪を感じさせなかった。
「ぷはっ」
たっぷりとわたしの口内を好き勝手に蹂躙して、鮫はようやく唇を離した。ぺろりと唇を舐めてみれば、やっぱりというか、血の味がした。鮫肌のせいだ。
「人工呼吸だ」
「へたくそ」
それでも何故か、いつも感じる息苦しさはどこかに隠れてしまっていた。