ギョルイ
どこまでも空気の読めない、もしくは読む気のないその人はぺちゃくちゃと何事かをしゃべり続けている。もう帰ろう。おかしな男に構っている時間なんか無い。幸い展示は見終わっていたから、もう帰るだけだ
「急ぐので、さよなら」
その人の横をするりと抜けて――今のは少し、魚の動きに似ていた――出口の方へ早足。追ってくる気は無いようだ。
「また来るでしょ、ここ。じゃあね、紅子ちゃん」
放り投げられた言葉に心臓を固められながら、走った。