ギョルイ
「紅子」
ぱさぱさに乾いた声が降ってきた。膜の張ったような視界では鮫の顔が見えない。
「寝てろ、ここにいてやるから」
わたしの目を閉ざす大きな手と優しすぎる声。人喰いザメと恐れられる海の王者が、こんな風でいいのだろうか。ざらつくもう片方の手のひらが頭を撫でる。莫大な安心感。どこか遠くからの潮の匂い。優しくされることに慣れていないわたしは泣きそうになって、ごまかすために眠ったふりをした。
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