ギョルイ

 「紅子」
鮫肌の手から解放され、全身が酸素を求める。自分の呼吸音がやけに大きく聞こえる。生理的な涙が止まらない。視界から正しい色が戻ってきて、飛び回っていた星もどこかへ消えてしまっていた。
「紅子」
「さ、め」
床に手を付いて呼吸するわたしを、鮫は抱きしめて、そのまま床に倒れ込んだ。
「お、もい。重いよ、鮫」
鮫は何も言わない。たださっきわたしの首を絞めたように、次は全身を締め付けるように抱くだけだった。


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