One Day~君を見つけたその後は~
……さあ、また脱線する前に、話をさっさと元に戻そう。

えーと。
確か、キヨちゃんに、
「“Aki”の着信音の話をした時のこと、覚えてる?」
って尋ねたところまで話してたんだよね?

でも、そんな俺の質問に対して、キヨちゃんの返事は「うん」の一言だけだったんだ。
しかも、ものすごーくそっけない言い方で!


キヨちゃんってば、ひどいんだよ。

あのとき、

俺の「ソレ、綺麗な曲だね」って言葉に、すかさず「えー、そうかなぁ?」って怪訝な顔を見せたことも、

「別に、この曲が好きだから着信音にしてるっていうわけじゃないんだけどねー」
って言いながら、机をピアノの鍵盤に見立ててエアピアノを弾き始めたことも、

机をトントンって鳴らしながら、
「しつこいと思わない? 同じ旋律を何度も何度も繰り返して。ワンパターンすぎるんだよねー」
って容赦なくバッサリと切り捨てたことも、

エアピアノの演奏が佳境に入ると、キヨちゃんのテンションも、机を叩く音も、ますますパワーアップして、

「見てよ、この激しさ! こんなの、“祈り”っていうより“執念”だと思わない?」

そう言いながら、細長くて綺麗な10本の指を思いっきり広げて、机をバーンって叩きつけたことも。


そういうの、ぜーんぶ!!

キヨちゃんは、なにひとつ覚えてくれていなかったんだ。


そのかわりに、俺がその時の様子を必死に説明すると、
「あはは! メガネ、そんな細かいことまでよく覚えてるねー。エライエライ」
って、人の頭をナデナデ。

……俺、かなり焦ったよ。

だって俺は、その後のやりとりが忘れられなかったから、何日もかけてこの曲を探し出したっていうのに。


そのことを本人が忘れていたら、何の意味もないじゃん!


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