One Day~君を見つけたその後は~
「先輩、もっと頑張って下さいよー。俺、慎先輩だけじゃなくて、恭太郎さんまでエリナに奪われるなんて、そんなのイヤですよ!」

「……そういうこと言う?」

「だって、そんなことになったら先輩めちゃめちゃ凹みそうですもん。俺、この前みたいに一人で練習するの、もうイヤなんです。あのときすっごく寂しかったんですからねー!」

当時を思い出したのか、タケちゃんはどんどんヒートアップする。

「深月先輩も、慎先輩も、俺をひとりぼっちにしてーっ」

「やだ、声が大きいってば! みんなに聞こえちゃうじゃない!」

私は慌てて、目の前の紙おしぼりでタケちゃんの口をぐわっと押さえつけた。


でも、タケちゃんは、全然懲りてくれない。

押さえつけられた口をモゴモゴさせながら、さらに絡んできた。

「あーっ! 今、慎先輩のこと見たでしょー」

へへへーってニヤけた顔は元からだとしても、このシラフとは思えない空気の読めなさって、どうなの?

私一人の手には負えなくて周囲に助けを求めようとしたんだけど、いつの間にか私たちの周りからは人がすっかりいなくなっていた。

みんな、うまく逃げたってことだね……。


……こうなったら仕方ない。

タケちゃんが、

「あれ? コーラがなくなっちゃった」

って空っぽになった紙コップをのぞき込む隙を突いて、私は立ち上がった。

こういうときには、この常套句!

「ごめん。ちょっとトイレ!」


タケちゃんの「えーっ、ダメですー」なんて聞いていられない。

机の端に置きっぱなしになっていた携帯をジャージのポケットに滑り込ませると、私はダッシュで部屋を飛び出した。
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