One Day~君を見つけたその後は~
「……疲れた」

そう言ったのは、私じゃなくてヤマタロだった。

枕にかけられていた力が緩んで、一気に呼吸が楽になる。

よかった。
鼻もちゃんと元に戻ってるみたいだ。

マットレスのスプリングが軋む音が聞こえたのと同時にふわっと体が浮き上がった気がしたのは、ヤマタロがベッドから勢いよく立ちあがったから。

「ちょっと、コンビニに行ってくる」

ヤマタロが、手に持っていた枕を私のおなかの上にぽんと載せながら、言った。

「……え?」

違うよ?
私、お弁当を選んだつもりはないんだよ?

ヤマタロだって、分かってくれてるよね?

「だったら私も一緒に行く!」

慌てて体を起こしたら、「いいから」って人差し指一本でおでこをびしっと突かれて。

さっきの頭突きのせいで刺激に敏感になったおでこがズキッと痛んで、私は尻餅とともに再びベッドに逆戻りしてしまった。

痛い……。
絶対明日“こぶ”ができるよ……。

「いいから、朝帰りして疲れてる人は、大人しくここで待ってて下さい」

「そういう嫌味な言い方、すごくイヤなんだけど!」

「心外だな。親切で言ってるのに」

おでこをさすりながら顔を上げると、ヤマタロが机の上に無造作に置かれたお財布を手に取るところだった。

こっちに背中を向けているから、どんな表情をしているのかは分からない。


「それに、オレも一人になって頭冷やしたいし」

「……え?」

「わざわざ会いに来てくれたっていうのに、いきなりがっついた真似して……オレ、かっこ悪いよな」

そう言いながら、ヤマタロが、お財布をジーンズの後ろポケットに押し込む。

「でも、仕方ねーじゃん。オレだって、余裕ねーんだから」


え?

……え?


余裕、ないの!?

ヤマタロなのに!?


びっくりして、もう一度ヤマタロの顔を見上げると……あれ?

ヤマタロのうなじや耳たぶが、赤く染まっているように見える。

日焼け知らずの色白の肌なのに……。


もしかしてヤマタロって、結構照れ屋だったりするの?


そんな意外すぎる言葉や反応に、私の胸がきゅんって泣いた。
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