One Day~君を見つけたその後は~
正門の前では、一台の大型バスが待機中だった。

バスの周りにはいろんな楽器のケースが並べられていて、それを男子生徒が床下のトランクルームにせっせと詰め込んでいる。


──深月が乗るバスだ。


「そういえば正午にバスが出るって言ってたよなー」

「いや、オレは何も聞いてない」

陽人はおそらくチョコ経由で聞いたんだろう。

だけど、それでも。
オレが知らないのに陽人は知っているというのが、どうにも気に入らなかった。


さっさとこんな場所、通り過ぎてしまおう。

オレはできるだけバスを見ないように、正門へと近づいた。


「おい、バスの中から深月がこっち見てるぞ。さっきオレたちがエリナと一緒にいるのを見たんじゃないのか? ……ってゆーか、なんだよあいつ、変な顔して」

そう言って笑い出す陽人。

深月のヤツ、一体どんな顔をしてるんだ……。

「……変顔なんていつものことじゃないか。ほっとけ」

「だけど、窓ガラスに張り付いてこっち見てるぞ。お前の彼女だろーが。手ぐらい振ってやれよ」

「いいんだ」


人の気も知らないで、あのバカ。
少し困ってろ。


「あれ? 隣は、男か?」

「……男?」



しまった、と思ったときにはもう遅かった。

オレはその言葉に反応して、つい、バスのほうに視線を向けてしまった。


バスを見ると、確かにその真中あたりの席に深月の姿がある。

そして深月の横にいるのは……タケだ。

寂しそうな顔を並べてこっちを見ていた二人は、オレを見つけるとほぼ同時に嬉しそうな顔を見せた。

……なんか小動物が二匹って感じだな。



オレは無表情のまま、またバスから視線を逸らした。



「あーあ。あいつら、また変な顔になった。無視してやるなよ」

「……見たくない」

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