One Day~君を見つけたその後は~


店を出るとチョコは、雲ひとつない空に指輪のはまった右手をかざした。

「見て見てっ。この指輪、キラキラしてるよ!」


一方の俺はというと。

生まれて初めてつけた……いや、つけさせられた指輪に否が応でも体中の全神経が集中してしまって、どうにもこうにも落ち着かない。

真っ直ぐ歩くというただそれだけのことなのに、ずしりと重くなった右手のおかげでうまくバランスがとれなくて。


……これじゃ明日は肩凝り決定だな。


チョコはそんな俺の手を無理矢理掴み、目線の高さまで持ち上げると、ふたつの手に輝く指輪を見比べて鼻歌を口ずさんだ。


「ねえ、気付いてた? このマニキュア、新色なんだよ」

目の前にすっと伸びる、チョコの白くて細い指。

その指先の、新色かどうかはよく分からないがとにかく綺麗なピンク色に染まった爪は、指輪なんかよりもずっと輝いて見えた。

「綺麗だな……」

「そうでしょー! 陽人に一番最初に見せたくて、昨日の夜気合い入れて塗ったんだからね!」
 


そして、チョコはまた飛び跳ねるように俺の前を歩く。

チョコが軽やかに動くたびに、白いワンピースが、黒い髪が、ふわりと宙を踊った。

そんなチョコの周りでは、春を感じさせる暖かな陽の光がチョコの動きに合わせてキラキラと輝いていて。

まるで花びらが舞っているように見えた。



なんだかウエディングドレス姿を見ているみたいだな……。




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