THE CANCEL
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「……!?」
バッと振り向いたところで何もなく
隣で一緒に朝食をとっていた母が不思議そうな顔をする
「どうかした?」
「……いや、なんでもない」
それ以上、母は何も聞いてこなかった
ただ
頑張り過ぎないようにね、
とだけ言って
家を出ると、ちょうど走って来たところだったのか、井上 飛鳥(イノウエ アスカ)が息を切らしてそこにいた
「ユキ、おはよ! セーフ!?」
「アウトだけど?」
俺――小嶋 雪仁(コジマ ユキヒト)――は、にっこり笑ってそう言ってやった
本当はセーフだが、この方が面白いから
「え゙ー、嘘つけぇ!
絶対セーフだったろ、今の!!」
「分かってるなら聞くな
てことで何か奢れ」
「うっわ! 無茶ぶりだよ、それ!」
「黙れ、トラックの前に突き出すぞ」
「怖ッ!! 今のスゴイ脅し文句だね! でもトラックないよ!」
最近、こいつは反抗期のようだ
昔はすぐに謝ってきて面白かったのに……
邪気の無い笑顔
まったく、ムカつくな……
「それよりさ ユッキー、俺……なんか嫌な予感がするんだけど……」
先程、俺が感じたモノ
こいつもどうやら感じたらしい
しかし、こいつが感じるとは……第六感でも開花したか……?
「ヒロ……大丈夫かなぁ……」
ボソッと呟かれた言葉に、ハッとする
ヒロ……何かあったのか……?
俺も天将も、ヒロに対する勘はよく当たる
――悪いことが起きなければいいが……
上を見上げれば、雲で覆われた空しか見えない
湿った空気が俺達の間を抜ける
「早く行こう、雨が降る前に……」