狂想曲
拉致


目を覚ました瞬間、鈍器で殴られたような激痛がこめかみに走った。

その所為で吐き気がする。


それでもどうにか体を起こそうとした時、



「……何、これ……」


両手首が紐状のもので拘束されていることに気がついた。


驚くままに目線を上げる。

知らない部屋で、知らない男たちに囲まれている私。



「おい、こいつ起きたみたいだぞ」

「やばくね? もう一回クロロホルム嗅がせた方がいいって」

「馬鹿! 勝手なことしたら俺らがどうなるかわかんねぇだろ!」


男たちはひそひそと言い合いながら、倒れたままの私を遠巻きに見ているだけ。



「とにかくもうすぐキョウさんくるし、どうせこいつも逃げられねぇんだから、このままにしとけばいいよ」


ぼうっとする頭で、必死に記憶の糸を辿る。



確か私はあの時、街で買い物をしてて、疲れたから適当なところの壁に寄り掛かって休んでたはずだ。

そしたら誰かに声を掛けられて、振り向いた瞬間、何かで口元を抑えられて、急に力が抜けて。


そこからは何も覚えてない。



「つーか、茶髪のロングの女なんてごまんといるってのに、ほんとにこいつで合ってんのかよ?」

「写真で見たのと似てるし、それにあの場には、そんな特徴のやつはこいつしかいなかったんだから、間違うわけねぇだろ!」


あまり正常でない思考でもわかる。

私ははこいつらに拉致されたらしい。


理由なんてわからない、けれど、これは紛れもなく、夢ではなくて現実だ。
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