狂想曲
奏ちゃんの気持ちが、痛い。

侵食されるように私まで胸が締め付けられて。



「奏ちゃんはお金持ちになりたいんでしょ?」

「そうだよ」

「でも、それでどうするの? お金持ちになれば川瀬社長を見返せるの?」


奏ちゃんはのそりと体を起こした。

そして私を見る目を細めながら、



「川瀬はもういないよ」

「……え?」

「いないっていうか、死んだんだよ。父さんが自殺してから半年後くらいかな。ザマがいいよね」

「じゃあ……」


言い掛けた私を遮る奏ちゃん。



「でも、俺はあいつの一族もろとも許さない、って言ったでしょ」

「………」

「憎くて憎くて堪らないんだよ。考えただけで、自分が自分じゃなくなりそうで。だから俺の手で決着をつけなくちゃいけない」

「………」

「そしたらその時やっと、俺と律はふたりで幸せになれるんだから」


奏ちゃんの握った拳に力が入る。


怖かった。

そんな顔をする奏ちゃんなんて嫌だ。



「やめてよ。そんなこと言わないでよ、奏ちゃん。私たちは今のままで十分じゃない! なのに何がいけないの?!」

「………」

「奏ちゃんは、お父さんのことを馬鹿だと思ってるし、自殺したのは自業自得だと思ってるんでしょ?! それなのに何で恨みの矛先はお父さんじゃなくて川瀬社長なの?!」

「………」

「川瀬社長だって死んじゃったんなら、もういいじゃない!」

「律は何もわかってないからそんなこと言えるんだよ」
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