狂想曲
ゆらり、と、奏ちゃんの瞳の奥に秘めたる炎が揺らめいた。



「奏ちゃん、まさかまだ私に何か隠してるの?!」

「隠してるよ。でも俺がそれを律に言うことはない。少なくとも今はまだその時じゃない」


私は悔しさの中で唇を噛み締めた。

憤りさえ感じていた。



「それは、私がまだ子供だからってこと?」

「そういう意味じゃないよ。ただ、物事には順序ってものがあって、今はそこまでしか話せないってこと」

「じゃあいつになったら、全部、本当のことを話してくれるの?」

「さぁ? 明日かもしれないし、10年後かもしれないし」


はぐらかすように言った奏ちゃんに、悔しさが溢れる。



今まで私は、私の知ってることだけを信じて生きてきた。

けど、でも、それは正しい現実ではなかった。


奏ちゃんだけが知ってる“何か”が、そこにはあって。


だから奏ちゃんはこんなにも、死んでしまった川瀬社長や、その家族までもを恨んでいるのか。

だけど何も知らない私なんかじゃ、いくら考えたってわかり得ない。



奏ちゃんは私の頭を撫でた。



「大丈夫。心配ない。俺が決着をつける。だから律は何もしなくていい」

「私だって当事者なのに、なのに何で奏ちゃんだけが抱えようとするの?!」

「俺の“理由”は、律には関係ないからだよ」


いつかのキョウと同じようなことを言う奏ちゃん。

私は目を伏せて立ち上がった。



「私、お粥か何か作ってくるね」


部屋を出て、扉を閉めて、息を吐く。

私はそのまま膝を抱え、その場にうずくまった。

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