狂想曲
あれから、眠れないまま明け方近くまで考え続けて、起きた頃には昼だった。
リビングに行くと奏ちゃんが新聞を読みながらコーヒーを飲んでいた。
「律、おはよ」
奏ちゃんはいつも通りだった。
だから私は小さく息を吐き、わざとのように口角を上げる。
しつこく昨日のことに触れたところで奏ちゃんが根負けして話してくれるなんてことはありえないのは知ってるから。
「おはよう、奏ちゃん。体はもう大丈夫なの?」
「うん。律のおかげだね。熱も下がったし、今日は仕事に行くよ」
「病み上がりなのに。せめてもう一日休むとかした方がいいよ」
「ほんともう大丈夫だってば。それに、稼いでなんぼの仕事なんだから、そんな悠長なこと言ってたら足元巣食われちゃうし」
「別にナンバーワンじゃなくてもいいじゃない」
「そこは俺のプライドの問題っていうか?」
おどけて見せる奏ちゃん。
顔だけは王子様みたいで優しそうなのに、奏ちゃんは人の話を聞かないっていうか、頑固者っていうか。
言っても無駄だと思い、私は諦めた。
「無理しちゃダメだよ。しんどくなったらちゃんとお店抜けさせてもらってね?」
「わかってるよ」
ちっともわかってない顔をしてるくせに、愛想のいい笑みで受け流す。
奏ちゃんは、本当に、よくも悪くもいつも通りらしい。
私は自分の分のコーヒーを作りながら、見るともなしに卓上カレンダーに目をやった。
「あ、そういえばもうすぐ奏ちゃんの誕生日じゃない」
「だね」
「欲しいものあったら言ってね。私奮発するから」
「別にいいって言ってんじゃん」
「奏ちゃん、毎年そう言うから、私困るんだよ。だから、何でもいいから考えといて!」