狂想曲
実際、普段からお客さんに色々なものをもらってる奏ちゃんには、特に欲しいものなんてないのかもしれない。

何より、私がプレゼントできるものよりずっと高価なものだってもらってるのだろうし。


けど、でも、私は奏ちゃんに何かあげたいのだ。



「俺はね、毎年律が祝ってくれればそれでいいの。ずっとそうやってきたんだし」


奏ちゃんと私は、毎年、たとえ喧嘩してようとも、お互いの誕生日だけは一緒に祝い合っている。


ちょっと豪勢なご飯を食べて、プレゼントを渡して。

ただそれだけだけど、でも今まで一度たりとも欠かしたことはない。



「でもね、奏ちゃん。私は、いなくなったお父さんやお母さんの分まで、奏ちゃんの誕生日を祝いたいんだよ」

「………」

「確かにどんなものを用意したってプレゼントに意味はないのかもしれない。けど、それでも、私は奏ちゃんに何かあげたいんだよ」


ぱさり、と、新聞を折りたたんで置いた奏ちゃんは、



「ありがとう、律。じゃあ、お言葉に甘えて、考えとくね」


そして自室に戻っていく。

私はその背を見送った後、また一口、コーヒーをすすった。


疲れ切った思考にブラックのそれが染み渡る。



「はぁ……」


私はもう一度カレンダーに目をやった。


今日はお父さんの月命日。

久しぶりにお墓参りでも行こうかな、と、思ったのは昨晩のことがあったからなのかもしれない。



私はキッチンでこうべを垂らした。

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