狂想曲
お父さんのお墓参りに行って、ついでとばかりに久々に地元に帰って友達と少し談笑して、駅に戻ってきた時には夜になっていた。
これからどうしようかと思っていたタイミングで、パパから電話で食事に誘われた。
回らないお寿司屋さん。
「パパ、今日は飲まないの?」
「あぁ。持ち帰りの仕事があってね。この後家で色々としなくてはならないから」
私とパパは別にいつもベッドの中にいるわけじゃない。
時々は、こうやって食事をしたり、買い物をしたりするだけだったりもする。
私は脂の乗ったマグロを眺めた。
「忙しいんだね、パパは」
「律だってバイト頑張ってるんだろう?」
夜はよくレオと飲んでるけどね。
なんてことは言えない。
私は「まぁね」とだけ答えた。
「疲れた顔だな。何か悩んでいるのかい?」
「悩んでるってほどでもないけど、お兄ちゃんと、ちょっとね」
「そうか。それはいけないな」
パパまで少し悲しそうな顔になった。
レオはパパのことを『危険だ』と言っていたけれど。
でもやっぱり私にはそんな風には見えないし、『パパにあんまり深入りしない方がいい』というレオの言葉の真意は見えてこない。
パパはスーツの内ポケットを探り、高級ブランドの長財布を取り出した。
「だったら、気分転換に買い物にでも行くといい。パパは当分時間が作れないから、一緒に行けなくて悪いんだが」
数枚の諭吉。
別にねだったわけではなかったのだけれど。
私はいつものように「ありがとう」と言って素直にそれを受け取った。