狂想曲
パパにとってはお金を渡すことが愛情表現であり、それを何も言わずに受け取ることが私なりの礼儀だ。

パパはそれで満足そうな顔になる。


私たちは、傍から見たらとても仲のいい親子なのだろうと思う。



「ねぇ、パパ」


だから私は気付けば口にしていたのかもしれない。


知りたいのか、知りたくないのか。

奏ちゃんの言葉を思い出しながら、私の心は揺れていた。



「探偵とかってお金かなりかかるよね?」

「一体どうしたんだい?」

「ううん、やっぱりいいや。ちょっと調べたいことがあったんだけど、そこまでするほどのことじゃないし」


慌てて言った私の言葉を不思議そうな顔で聞いたパパは、



「パパにできることがあるならいつでも言いなさい。なるべく力になってあげるから」

「うん。ごめんね。ありがとう」


パパは私の手に、さらに一枚、諭吉を載せてくれた。


増えていく、謎と、お金。

私の虚しさもまた、増していく。



財布をしまったパパは席を立った。



「そろそろ出ようか、律。またゆっくり聞くから、電話してくれ」

「うん」


店を出たら、また雲行きが怪しくなっていた。

テレビなんか見ないから知らないけど、もう梅雨なのだろうかと思いながら、私は、星ひとつない空を見上げる。


空にはお父さんがいるなんて思うことができない私は、薄情な娘なのかもしれない。

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