狂想曲
だって、私自身がわからないことを人に説明できるはずなんてないし、第一、拉致されたけど気付いたら家で寝てました、なんてことを誰が信じるというのか。

百花だってどうせ、私の言ったことを馬鹿にして笑い飛ばすだけだろうから、だったら最初から言わない方がいい。


百花は眉根を寄せて私を凝視するが、でも、諦めたように肩をすくめ、



「まぁ、律がそこまで言うならあたしも聞かないけどさ。あんまやばいことやってちゃダメだよ?」

「わかってるって。大丈夫だし」


きっともう、二度とあんなことはないと思う。

っていうか、そうそう人違いで拉致されるようなことがあっちゃ堪らない。


そもそも、どこからどこまでが夢か現実かわかんないってことは、もしかしたら全部が夢だったってこともありえるわけで。


私は奏ちゃんが言うように、もしかしたら本当に、知らない間にお酒飲んで酔っ払って家に帰って寝てただけなのかもしれないのだから。

いや、そうやって結論付けて、忘れる方がいい。



「ねぇ、百花。私これから当分禁酒するわ」

「はぁ?!」

「マジで、マジで。決意したっていうか、奏ちゃんにも怒られるし」

「あんたほんとわけわかんないんですけど」


百花は私のカプチーノを勝手に奪う。

そしてそれをすすりながら椅子の背もたれにもたれかかり、



「っていうか、奏くんといえばさぁ。ほんとかっこいいよねぇ。あたしもあんなお兄ちゃんがいたら律みたくふたりで暮らしてもいいけどー」

「片付けできない人だけどね、奏ちゃん」

「いやいや、それくらい全然いいよ。あれだけかっこよければ何の問題もない」

「まぁ、傍目から見ても普通にイケメンだと思うけどさ。私にしてみれば、まさか兄がホストになるとは、って感じだよ」

「律と似てないよね、顔」

「よく言われる。けど、そんなもんじゃない?」


言いながら、話題が変わったことにほっと安堵してる自分がいる。


外は夕刻だというのにまだ明るい。

随分と陽が長くなったなと、そんなことで春の訪れに気付く。

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