狂想曲
いつものスタンディングバーで、テーブルに寄り掛かりながら携帯を眺める私。
キョウからの連絡はない。
「律、おかわりは?」
百花は、言いながら、何杯目かのグラスを傾ける。
「んー、いらないや」
「へぇ、珍しい」
「百花は私のことなんか気にせず、飲んでいいよ。ここ、奢るし」
「さんきゅー」
「だって今日付き合わせちゃったからね、奏ちゃんの誕生日プレゼント選び」
キョウにはあんな風に言われたけれど、でも私は、やっぱり奏ちゃんのことが心配だし、誕生日を祝いたいとも思う。
それがいけないことだとは思えない。
「かなり歩き回ったよねぇ。もう足パンパン。だけど、いいの見つかってよかったね」
「うん、ありがとう」
ちゃっかり自分の服を大量購入した百花は、その荷物を眺めながら、
「でもさぁ、律と奏くんって、やっぱりあたしからしたら羨ましく思うなぁ」
「また言ってる」
「だって、うちにも妹いるけど、そんな風じゃないよ。性格も真逆だし。あたしを反面教師にしてるんだって。恋のひとつも知らずに勉強ばっかして、何が楽しいんだか」
「………」
「たまに会えばあたしのこと『恥ずかしい』とか言うしね。あたしもあんなガリ勉が妹なんて、やだよ。だからあいつの誕生日なんてどうだっていいもん」
「そんなもん?」
「色々だと思うけど。ほら、兄弟・姉妹って、親より近いじゃん? で、友達よりも近いんだけど、だからよくも悪くもあるっていうか」
「うん」
「血が繋がってる分、嫌だからさよならー、ってわけにはいかないし。同性だと尚更、自分と同じところや違うところを探しちゃう」
あまり自分の家族のことを話したがらない百花にしては珍しいなと思った。
少し酔っ払っているのかもしれない。
百花の傾けたグラスの中の氷が、カランと揺れた。