狂想曲
「実はさっき、兄貴と喧嘩しちゃってね。何年も前に絶縁状を叩きつけてきたくせに、今更連絡してきて、何なんだか」

「………」

「だから律さんに愚痴ろうと思って電話したんだけど、今日はいいや。折角百花さんにも会えたんだし、みんなで楽しく飲もう」


また兄弟・姉妹の話だ。

嫌になってくるなと、思いながら私は酒を流した。


話は終わったと思ったはずだったのに、百花はレオに同調するように「わかるよー」と言っている。



「ムカつくー。何様だよって感じ。偉ぶっちゃって。みたいな?」

「そうそう。まさしくその通り」

「ひっどい話。あたしだったらこんなにかっこいい弟がいたら、優しくすんのに」

「ぼくだって百花さんみたいな姉がいたら、何でも言うこと聞いちゃいますけどね」


ふたりは私なんてそっちのけで、すでに意気投合したらしい。



でも、これはこれでいいのかもしれないと思った。

百花は決して、レオのことを可愛いなとどは言わない。


誰かに愛されたい百花と、誰かを愛したいレオは、ある意味ではお似合いだと思う。



「私、そろそろ帰るから、あとはふたりで飲んでなよ」

「えー?」


声を揃えるふたり。



「レオ、年上でも百花は一応女なんだから、ちゃんと送り届けてあげてね」


「はーい」と言ったレオに対し、百花は「一応って何よ」と口を尖らせていたけれど。

私は「ばいばーい」と後ろ手に手をひらひらとさせ、さっさと店を後にした。



店を出たら湿り気を帯びた風に吹かれた。



もうすぐ梅雨も終わる。

そしたら暑苦しい夏が来る。


キョウからの連絡は、今日もなかった。

< 113 / 270 >

この作品をシェア

pagetop