狂想曲
そして迎えた、奏ちゃんの誕生日の前日。
奏ちゃんは夜には仕事に行って、翌朝まで帰ってこないから、奏ちゃんがホストになってからは、奏ちゃんの誕生日は前日の夕方にお祝いをするようにしている。
好きな時間に寝起きして働いている私たちは、日付だとか時間だとかの感覚が希薄なのかもしれないと、こういう時はたまに思う。
朝からテレビはどのチャンネルも梅雨明けしたとの話題一色だった。
私が、前日から仕込んでおいたケーキの、最後の仕上げでデコレーションを施していると、
「おはよ」
お昼過ぎに起きてきた奏ちゃんは、「今年も甘い匂いがするね」と、苦笑い。
「誕生日おめでとう、奏ちゃん」
「ありがとう」
「22歳になった感想は? って言っても、ほんとは明日だけど」
「律が祝ってくれると、いくつでも嬉しいよ」
寝起きとは思えない笑顔で、いつもの調子の奏ちゃんは言う。
でも、体調もよくなったらしいし、何より梅雨明けしたし、今日はいい一日になる気がした。
「今年もケーキは生クリームたっぷりみたいだね」
「今ね、ピザも焼いてんの。去年は外食だったけど、今年は腕をふるうよ。あ、プレゼントは私の部屋に隠してあるからまだ見たらダメだよ。あとで渡すから」
「はいはい。楽しみにしてるね」
奏ちゃんは、淹れたコーヒーをすすりながら、まるで子供に言うみたいだった。
久しぶりに料理をする私。
ソファでくつろぎながら新聞を読む奏ちゃん。
年に二度、奏ちゃんの誕生日と私の誕生日だけは、お互いに仕事以外の予定は入れずに過ごす。