狂想曲
午後5時を少し過ぎた頃。
私は、奏ちゃんのために焼いたピザやスープをテーブルの上に並べ置いた。
奏ちゃんはスーツに着替えていた。
奏ちゃんはこの後、お店でバースデーのイベントがある。
ナンバーワンの誕生日なんだから、そりゃあ、きっとすごいものなのだろうけど。
「毎年のことだけど、奏ちゃんも大変だよねぇ。誕生日こそ稼ぎ時だなんて、私ならやってられない」
「仕方がないよ、そういう世界なんだし。それに、俺自身、儲かるのは事実なんだから文句言えないっしょ?」
「そうだけどさぁ」
毎年、大量のプレゼントと共に死にそうな顔して帰ってくる奏ちゃんのことを思うと、私は何とも言えない気持ちになる。
自分の誕生日なのに、なのに誰かにいつも以上の笑顔を振り撒きながら、いつも以上に酒を飲んで。
そこまでする必要が本当にあるのだろうかと言いたくなる。
「いくらお金があったって、健康な体は買えないんだよ。奏ちゃん、この前の風邪だって無理するから長引いたんだし、病気にでもなったらどうするの」
「そしたらふたりでどこかの島にでも移り住んで、律に看病してもらいながら療養するってのも悪くないね」
また勝手に私の将来まで巻き込んで。
本気で心配する私をよそに、奏ちゃんはふざけたことしか言ってくれない。
奏ちゃんは、怒る私に肩をすくめて見せながら、
「ねぇ、誕生日くらい楽しい話しようよ」
奏ちゃんはこの街に来て、はぐらかすことにばかり長けてしまったらしい。
もう癖になったみたいに当たり前に言いながら、少し高いワインのコルクを抜いた。
「そういえばさっき、ももちゃんからもおめでとうメール来たんだよ。今度奢ってくれるらしいし、これって誕生日の特権だよね」
私のグラスに注がれるぶどう色の液体。
血と、どちらが濃いのだろうかと、私はくだらないことを考えていた思考を振り払った。