狂想曲
慌てて言った。

キョウはそんな私の頭を撫でた。



「いいね、こいうの。何か、いい」


繰り返される、ハッピーバースデーの音色。

キョウは、私にもたれかかってきた。



「なぁ、ついでにプレゼントちょうだい」

「欲張りー」

「誕生日の特権っしょ」


笑いながらキョウは言った。

奏ちゃんと同じ言葉に、よぎったあの瞬間の残像を振り払う。



「何か欲しいものでもあるの?」

「ピアノ」

「ちょっと、それいくらするのよ。私破産しちゃうじゃない」

「でも、今すげぇ弾きたくなったから」


私もキョウのピアノを聴いてみたいと思ったが、やっぱり現実的にはどう考えても無理だ。

すると、キョウは煙草の煙を吐き出しながら、



「なんてな」


誤魔化すように言って、笑う。

嘘つきな横顔を見た。


キョウは私に何も求めないし、何かを欲しようともしない。


全部を押し込めて、望んでいないフリをする。

どうしてそんなにまでして、自分を犠牲にしたがるのか。



「じゃあ、私、お金貯めてピアノ買うね。私が、私のために買うの。だからキョウには触らせないよ」

「何それ」

「あ、でも、どうしてもって言うなら、弾かせてあげなくもないけど」


試すように言って、その反応をうかがってみた。


だけど、キョウは受け流すように「はいはい」と言うだけ。

やっぱりその本心を見せてはくれなかった。

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