狂想曲
雨音が響く車内。
スーパーまで向かう途中、キョウの携帯が鳴った。
「はい。あー、マジっすか。じゃあちょっと確認してから折り返します。はい、はい、すいません」
電話を切ったキョウは、物憂い顔。
車は近所のスーパーに到着した。
「俺一件電話しなきゃだから、先に中入ってて」
「うん」
私はキョウを残し、車を降りて、駆け足で店内に入った。
店内で、目ぼしいものをカゴに入れていく。
冷蔵庫はほとんど空だったから、買い甲斐もあるというものだ。
夜ともなると、スーパーには、値引き品が目立っていた。
私は3割引きのシールの貼られたじゃがいもの袋に手を伸ばした。
と、その時。
「あ……」
横からも同じように、女性がそれを取ろうとしていて。
「あ、すいません。私いいんで、どうぞ」
「いえ、そんな。私こそいいですから、どうぞ」
日本人独特の譲り合いの精神で、傍から見たらおかしな私たち。
私とその人は、少しの押し問答の末、目が合って、笑ってしまった。
「あの、私ほんとにいいんで、カゴに入れてください」
私の言葉に、彼女はぱあっと笑顔になる。
「ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかしら。主人が今日はどうしても肉じゃがが食べたいって言うものだから」
聞いてもいないことを、のろけた顔で教えられた私は、「はぁ」としか返せなかった。
私も今日は肉じゃがにしたかったんですけどね。
とは言わず、「それじゃあ」と、立ち去ろうとしたその時。