狂想曲
「るりちゃん。今はそんな話しなくていいから」

「そうね。そうよね。私、余計なこと言っちゃったわね。キョウくんは今幸せなんだものね」


そしてるりさんは、カゴの中に入れていたじゃがいもの袋を、私のカゴの中に入れた。



「やっぱり今日はやめるわ、肉じゃが。だから、このじゃがいもで、キョウくんに何か美味しいものを作ってあげてください」


余計なお世話だ。


るりさんは私に向かって涙の混じる顔でほほ笑んだ。

取り立てて美人だとも言えないような、年上で人妻で妊婦のこの人に、なのに私が勝てる要素なんてない気がして。



ずっしりと、じゃがいもの所為で重くなったカゴの重みが、肩にまで伝わる。



「待ってよ。るりちゃん、送るから」

「いいわよ、そんなの」

「何遠慮してんの」

「遠慮とかじゃないでしょ。キョウくんは自分のことだけ考えてればいいの」


るりさんは私に軽く会釈して、キョウに「それじゃあね」と言って、立ち去った。

息を吐いたキョウは、片手で顔を隠すように覆う。



だけど、少しして、



「なぁ、何食わしてくれんの?」


その顔がこちらに向けられた時にはもう、先ほどの苦しそうな表情は消えていた。


キョウは今のことに触れないつもりなのだろうか。

それとも、触れたくない?



「ポテトサラダにでもしようかな。あとは、ハンバーグとか」

「いいね、それ。でももう焦がすなよ」

「しつこいー」


笑いながらも、私は、とても肉じゃがを作る気にはなれなかった。

< 127 / 270 >

この作品をシェア

pagetop