狂想曲


キョウの部屋のキッチンで、じゃがいもの皮を剥きながら、考えるのはあの、るりさんという人のこと。

私の知らないキョウのことを、知ってる人。


私は改めて、キョウのことなんて何も知らないんだと思わされた。



「ポテサラー、ポテサラー。まだぁ?」


キョウは鼻歌混じりに言いながら、対面式のカウンターキッチンからこちらを覗き込んでくる。

私はげんなりしながら「そんなに早くできないって」と、子供みたいな顔をして待つキョウを制した。


私は息を吐く。



「キョウさぁ」

「んー?」

「さっきの人――るりさん、だっけ? 随分仲よさそうだったけど」


言って、目を上げると、キョウは先ほどまでの嬉々としていた顔を少し曇らせ、



「まぁね。昔からの知り合いだし、今は先輩の奥さんだし」

「ふうん」


わざと地雷を踏んではみたけれど。

でも、怪我をしたのは私の方だったのかもしれない。


心が、切り裂かれたように痛くなって。



「るりちゃんはただ、俺のこと色々知ってるから、親身になってくれてるっつーか。過剰に心配してくれんだよ」


るりさんは知ってるのに、なのにキョウは私には決して教えてはくれない、『色々』。

私は、仮にもキョウのカノジョなのに。



「私さぁ、さっき邪魔だった?」


これじゃあ、血が繋がってるのに何も教えてくれない奏ちゃんと同じだ。

レオだってそうだし、どうしてみんな、私に隠しごとばかりなのか。
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