狂想曲
「何言ってんの」

「キョウにだって言いたくないことがあることくらい、わかってるよ。でもね、私たちって結局は、付き合ってるって言っても体だけなの?」

「今そんな話してねぇだろ」

「キョウの『好き』は、ペットが可愛いとかそういう抽象的な意味の『好き』であって、別に私に対しての恋愛感情とかじゃないんでしょ?」


こんなことを言うつもりなんて微塵もなかったのに。

なのに、一度口から漏れた言葉は、せき止められずに濁流になる。



「でも、それもそうだよね。体売ってる私が何を綺麗な関係なんて求めてんの、って感じだし」

「やめろ」


カウンターで一線引かれた場所で、向き合う私たち。

だけど私は、キョウの目が見られなかった。


私は唇を噛み締めて、顔を俯かせた。



「俺はそんなつもりで律と付き合ってるわけじゃねぇよ」


涙の一筋が零れ落ちた。

悔しくて、そして悲しかった。


“いい子”の仮面を剥がした私は、醜くて我が儘で、子供みたいな駄々をこねる。



「何で泣いてんの」


キョウはひどく困った顔をする。

私はそれでも泣いてないと言いたくて、でも言えないから首を振った。



「るりちゃんのこと、気に入らない?」

「………」

「だったらもう会わねぇよ。連絡も取らねぇし。それでいいんだろ」


そういうことじゃないのに。

なのに、先に背を向けたのはキョウの方。


どうして私たちはこんなことで喧嘩しているんだろうかと思いながら、また溢れた涙の一粒が、じゃがいもに落ちて、染みた。

< 129 / 270 >

この作品をシェア

pagetop