狂想曲
「お母さんが出て行って、お父さんが死んで。確かにあの頃、私は毎日辛くて泣いてばっかだったけど。でももう3年だよ?」

「………」

「私今年でハタチになるんだよ?」


奏ちゃんは、言った私に背を向けた。



「律がいくつになろうと関係ないよ。俺は律と毎日楽しくこうやって暮らすために頑張ってんだし、そのためなら何だってするよ。それを苦労だとは思わない」

「そんなこと言って、奏ちゃんだっていつかは結婚とかするでしょ。いつまでもこのままふたりでいるわけでもないんだから」

「結婚なんてしないよ。相手もいないし、それ以前にそういうのに興味もない」

「でも、私はするかもじゃん」


振り向いた奏ちゃんはひどく驚いた顔だった。

これがナンバーワンホストの顔なのかと思うほどに。



「律、誰かと結婚しようとか思ってんの?」

「まさか。私だって相手いないし」

「じゃあいいじゃん」

「けどさ、そういう可能性もあるって話をしてんのよ、私は」

「可能性の話なんていくらしたって意味ないよ」


私は奏ちゃんに依存してる。

でも、奏ちゃんの方が私という存在を求め過ぎているんじゃないかと、時々思う。



「なぁ、律。それより今度の休み、買い物付き合ってくんない?」

「いいけどさぁ。また百花にデートしてるみたいだとか言われちゃうよ」

「別に悪いことしてるわけでもないのに、何か問題ある?」

「……ない、けど」


いつもそんな会話の繰り返し。

私はため息混じりに、できたパスタをテーブルに運んだ。


煙草を消した奏ちゃんは急に嬉しそうな顔になり、「いただきまーす」と両手を合わせた。



私は結局、奏ちゃんに甘いのだ。

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