狂想曲
「いやぁ、でもマジで驚いたよ。律が、まさか奏くんと暮らすのやめて、男と同棲してるなんて」
昼下がりのカフェに百花の甘ったるい声が響く。
私は、百花の声よりさらに甘いココアをすする。
「だって奏くんも何も言ってなかったし。知らなかったもんね。あたしさぁ、あのままふたりで老後までいくのかと思ってたけど。っていうか、それもだけどさ」
と、言いながら、百花は私に目を移しながら、
「あんた、何でカレシがいることあたしに黙ってたの?」
「言うタイミングがなかっただけだよ。それに、百花に言ったら奏ちゃんにまで伝わっちゃうじゃない」
「何で奏くんが知ったらダメなの?」
容赦ない突っ込み。
私は平静を装いながらも、上手く誤魔化す言葉ばかり探してしまう。
「奏ちゃん、紹介しろってうるさいし。それに、紹介したらしたで、あの男はダメだ、この男はやめとけ、って」
「そんな奏くんがうざったくて、律は愛しのカレシを選んだわけだ?」
それじゃあまるで、私の方が悪者みたいじゃない。
わざとらしくも嫌味な言い方をしてくれるなと思った。
でも、だからって、奏ちゃんにキスされたから家を出た、なんて、百花に言えるはずもなくて。
「別に、私ももう子供じゃないんだから、いつまでもお兄ちゃんと暮らしてるよりよっぽど普通のことだと思うけど」
「ふうん。まぁ、事後報告されたあたしが今更どうこう言うことでもないけど」
百花は不機嫌さ丸出しの口調で言って、カフェラテのストローを咥える。
「で? その“律の愛しのカレシ様”ってどんな人?」
「優しい人だよ。優しさで、すべてを誤魔化す人。根本的なところがちょっと奏ちゃんと似てる」
「わっけわかんない」
「だよね。私もあの人のこと、よくわかんないや」