狂想曲
カフェを出たら、南の空には入道雲があった。
太陽はじりじりと肌を焦がし、もうすっかり夏だなと思わされた。
私はいつものように、当てもなくふらふらする。
街のショーウィンドウを眺めながら、そういえば着る服がなかったんだと気がついた。
あの日、奏ちゃんと暮らすマンションを飛び出して以来、一度として帰宅していないまま。
生活するための最低限のものはキョウが買ってくれたとはいえ、さすがに季節が変わればそれで事足りるわけもない。
「はぁ……」
新しい服を買い揃えるべきか、それとも奏ちゃんがいない時間を見計らって取りに戻るべきか。
でも、もしも奏ちゃんに会ってしまったら、と思うと、未だに二の足を踏んでしまって。
奏ちゃんと会うことが怖かった。
会って、何を話せばいいのかわからない。
どんな顔して向き合えばいいのかもわからない。
『律さぁ、今の言葉聞いてたら、とりあえず奏くんと一緒に暮らしたくないから男の家に転がり込んだ、っていう風に受け取れるけど』
百花の言葉に、どうして、そうじゃないんだ、と言えなかったのかと今更思った。
キョウは昨日の夜に出て行って以来、戻っていない。
だから私は呆れられたのだろうかと不安に押し潰されそうになる。
「はぁ……」
ショーウィンドウ越しに映る冴えない顔した自分を見ては、また漏れるため息。
鳴らない携帯を、いつも握り締めている私。
待っているのは、誰からの着信なのか。